【 読書感想文、2 】   赤城高原ホスピタル

(改訂: 04/08/02)


はじめに  読書感想文のページが大きくなったので、古いものは第2部に移動しました。

       [読書感想文、1]


☆ 五番目のサリー(The Fifth Sally) ダニエル・キース著、小尾芙佐訳、(早川書房、1991)


[あらすじ] ニューヨークでウェイトレスをしているサリー・ポーターは、あることで子供の頃から悩まされていました。時々、記憶喪失になり、記憶が戻ると、周りの人からあることないことを言われ、嘘つき呼ばわりをされるのです。実は、サリーには4人の人格があったのです。そして、ある事件をきっかけに精神科医ロジャーの治療を受けることになりました。4人の人格を統合しようとするのですが、・・・・・・


[感想] 私は幼い頃から汚いものや怖いものは「ないもの」として蓋をして見ないようにして生きてきました。テレビを見ても、インターネットを見ても、悲惨で醜悪な情報でいっぱいです。だから、TVもPCも苦手。仲間の誰かが他人の悪口を言っているのを聞くだけで体が震え、頭痛がしてきます。
 そういう訳で、サリーの4人の人格のうち、ジンクスだけは、自分に馴染めません。私だったら、怒ることも恨むこともできず、自分を責めて泣くか、他の人格にスイッチングしてしまうことでしょう。
 サリーがジンクスにかけた優しい言葉には胸をうたれ、涙をこぼしてしまいました。私も、いつか、自分の欠陥を許し、その部分と溶け合い、共存して行けるようになりたい。ほころびは繕えばいいのだと思えるようになりたい。(Sさん、解離性同一性障害、23歳、女性)


☆ 「誰にも言えなかった」 エレン・バス+ルイーズ・ソーントン共編  森田ゆり訳 (築地書館、1991)


 この本には、幼少期に、ごく身近なあるいは見知らぬ男から性的な暴力を受けた女性たちの生々しい心の叫びが綴られている。
 私は、この本を読むのが怖かった。それは、自分の中で、最も痛い心の傷に触れなければならないからだ。私自身が、3歳ころから実父の性的な道具として利用され続けてきた過去を持っている。子供の頃は何が起きているか理解できなかった。ただ、体をいじられた時は、強い違和感が残り、なぜか無性に寂しくなった事は覚えている。
 やがて思春期になり、何が行われているか、はっきりと自覚するようになると、あいまいな感情は明確な怒りとなり、屈辱感や嫌悪感を味わった。しかし、まだ中学生だった私は、父にその感情をぶつけることはできなかった。男性と女性の力の差、親と子の権力の差、それらを嫌というほど思い知らされていた私は、恐怖の余り、父に従うしかなかった。私が15歳のとき、父は亡くなった。けれど苦しみは、これで終わったわけではなかった。
 大人になった私は、父を拒絶できなかった自分を心の中で責め続けた。決してぶつけることができなかった父への怒り、体の中まで支配されたという屈辱感と無力感。助けるどころか、父との仲を嫉妬して私をいじめ続けた母への不信感。決して誰にも知られてはいけないという思いからくる孤独感。私はそれらの感情に押し潰されそうになり、自殺未遂を繰り返した。
 どうやって生きていったら良いのか、分からなくなってしまった自分に限界を感じ、赤城高原ホスピタルにつながった。その院長に勧められたのがこの本である。あんなに読むのが怖かったのに、今は読んでよかった、と言える。
 性暴力を受けた女性は誰もが同じような苦しみを味わうのだと知った。そして、誰かに打ちあけたり、相談をすることにも、大きなリスクを伴うのではないかという不安から躊躇してしまう。私だけが特殊な訳ではなかったのだ。
 この本で体験を語った女性たちは痛みを率直に表現することで確実に自尊心を取り戻し、無力感を克服している。私が、闇に葬り去りたかった程辛い過去をこうして文章にできたのも、本の中の女性たちから強さを分けてもらえたからだと思う。(20台、Mさん、女性、03/08)


文章の一部は、転載時に要旨を変えない範囲内で書き直しました。[TOPへ]

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AKH 文責:竹村道夫(初版:04/08/01) 


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